『ZMOT』コンテンツマーケティングに携わるなら知っておきたい消費者行動

近年コンテンツマーケティングが話題に挙がるにつれ「ZMOT」という言葉も知られるようになりました。 ZMOTとはGoogleが提唱する、オンラインにおける購買行動での意思決定プロセスを指しており、消費者による事前の情報収集が行われていることを概念化したものです。

コンテンツマーケティグを考えるにあたってZMOTの概念は欠かせません。今回はGoogleが2011年に公開した『Winning the Zero Moment of Truth eBook』を元に、基本概念を解説します。

Winning the Zero Moment of Truth eBook (2011)

既に公開から10年近く経っているものの、スマホをはじめとしたモバイル機器の普及=常時オンライン化が進み、よりZMOTの重要性が増している今だからこそ、あらためて一読しておく価値はあるはずです。

関連記事

少数チームのオウンドメディア運営における設計の勘所 スタート時に考えたいオウンドメディアに必要な役割とリソース 《5ステップで作る》コンテンツマーケティング・はじめてのカスタマージャーニー 混同しやすいコンテンツマーケティングとSEOは区別と両立が成功への第一歩

ZMOTとは

ZMOT(Zero Moment of Truth)は、端的に言えば「実際に店頭に足を運び商品を見る、その前に情報に接し、購買意思の決定をする瞬間」のことです。

ZMOTを理解するためには、前提としてFMOT(First Moment of Truth)とSMOT(Second Moment of Truth)を知っておく必要があります。

ZMOTの前提であるFMOT、SMOT

2005年にP&G社によって、消費者がどのように商品の購入(継続)の意思決定をするかという観点からFMOT・SMOTの概念が提唱されました。

FMOT(First Moment of Truth)は「消費者が店頭の商品陳列棚をみて、どの商品を購入するかという意思決定をする瞬間」を指します。
その瞬間は時間にしてわずか7秒以内であり、そこでいかに選択されるかが重要、ということです。店頭POPやパッケージデザイン、ノベルティや棚上の位置のように、いかに手に取らせる工夫をするかが重要です。
またSMOT(Second Moment of Truth)は「実際に商品を購入し、使用する瞬間」です。ここで良い商品体験を与えることができなければリピーターになることはありません。

『Winning the Zero Moment of Truth eBook』には上記のような図で示されています。

引用:『Winning the Zero Moment of Truth eBook 』16ページ

なお、ここでいう「Stimulus」は購買行動のきっかけになる”刺激”をイメージしてください。
これら一連の流れは、同資料では次のような具体例で示されています。

「テレビでフットボールの試合を見ていた父親が、たまたまデジカメの広告を見て購入を考え、店頭に行き、テレビで見たのと同じ立て看板の出ていた立派なパッケージのカメラを見つけ、店員があらゆる質問に答えてくれ、購入する。買って子供の美しい写真を収めることができた。」

TVCMのような広告も含めた刺激(Stimulus)により店頭に足を運び商品棚の前に立ち(FMOT)購入し、実際に使用する(SMOT)というのが、このモデルです。

情報へのアクセスが容易化しZMOTモデルへと発展

Webが普及することで、消費者が能動的に情報を取得することが可能になりました。例えば総務省の統計によると、国内では2019年時点で世帯における約8割がモバイル機器を保有していることがわかっています。 情報へのアクセスが容易になったことで、消費者はブラウザでの検索をはじめとした様々な情報収集行動を、あらゆる瞬間に行えるようになりました。

引用:令和元年版 情報通信機器の保有状況

御存知の通り、特にスマホの普及による消費者行動の変化は著しいものがあります。パソコンのように「よし調べるぞ」と情報を収集するのではなく、友人同士の会話の合間、街で広告を見かけた瞬間など、どんな僅かなタイミングでも情報収集が行われるようになったことで、より消費者が情報に接触するハードルは下がったと言えます。

こうした環境の変化を踏まえて、Googleによって新たに提唱された概念が「ZMOT」というわけです。

引用:『Winning the Zero Moment of Truth eBook 』17ページ

先程のデジカメを購入した購入した父親の例で言えば、

「広告を目にしてデジカメの購入を考えるものの、すぐにネットで [ デジタルカメラ レビュー ] で検索し、購入者のコメントを確認。Twitterで“100ドル以下でいいデジカメ持っている人いない?”と投稿し、YouTubeで [ デジタルカメラ デモ ] の動画を探す」

のが、現在の行動モデルです。
このように、ZMOTでは実際の購買行動に移る以前の段階で既に何を購入するかの意思決定がなされています。つまりZMOTを理解していないと、店頭に足を運ぶ前に既に勝敗が決していることを見落としてしまいます。 この傾向は必ずしも消費財に限らず、BtoC・BtoBいずれの場合でも産業を問わず見られています。

ZMOTを考えたとき、マーケティングの分野で古くから使われている「ファネル」についても同eBookでは言及しています。 徐々に狭まっていく一方通行のファネルどおりに消費者が通過するわけではないと言及しています。つまり現在では「ニューロンのように枝分かれし双方向化したプロセスを経て購買の意思決定をしている(24p)」ということです。

マーケティング施策において、モデルとしてファネルを設計することは十分有意義ではあります。同時に、実際はより有機的・流動的に動く消費者という実態があることを理解し、そうした不確実な集団にコンテンツを提供したときの反応をフィードバックし改善するというサイクルを高速で回していくこと必要があることも念頭に置く必要があります。

ZMOTとコンテンツマーケティング

ZMOTにおいては、いかに商品検討の前段階にある見込み消費者に “情報” という形で接点を持つかが重要です。 消費者と企業(商品)の接点としては、2011年当時は『検索』が非常に大きなウェイトを占めていたので、『Winning the Zero Moment of Truth eBook』では主に検索・SEOの観点からコンテンツの重要性が説かれています。

もちろん現在でもZMOTにおける検索の重要性は変わっていませんが、より多くの種類の接点が生まれ、Googleの検索サービス自体が充実化したことで、狭義の、いわゆるSEO対策(つまり検索順位で上位表示されること)だけではなく、より多くの観点から考える必要があります。

『Winning the ~』の第6章に沿って、コンテンツによってZMOTで成功するためのポイントを整理してみます。以下は記事型のコンテンツだけでは満たすのが難しい場合もありますが、トータルなコンテンツマーケティングにおいては重要な視点です。

1. ZMOT領域の担当者を置く

他のマーケティング分野と同様に、ZMOTについても専任の責任者を置き、クリエイティブや戦略分野など様々な代理店・支援会社とやりとりをさせる権限や、会議における発言権を持たせます。必要に応じた予算の策定も必要です。

2.ZMOTを発見する

商品・サービスカテゴリーごとにZMOTのパターンは異なるので、(検索をZMOTの端緒とするならば)消費者がどのような語で検索しているかを確認する必要があります。

例えば [ゴルフシューズ] 関連の検索語句で特にボリュームの多いものが [ゴルフシューズ_女性用] や [ゴルフシューズ_レビュー]であれば、どんなコンテンツを提供すべきか検討できるはずです。そこから、Google広告の『キーワードツール』などで当該の検索語句の周辺キーワードまでを調査することでZMOTの形が見えてきます。

3.消費者の疑問に回答する

特に検索をきっかけとするZMOTは例えば [ドッグフード_原料] のように「質問」の形で示されます。このZMOT(ここでは検索語句)を見つけたとして、それに対し『ドッグフードが◯◯%OFF!』のような広告を提示してしまうのは消費者の質問を満たしていないという点で正しくはありません。もちろん割引やクーポンといったオファーそれ自体は有効な手段ですが、まずは消費者の質問(ドッグフードの原材料は何か?)への回答がなされていないこととは別問題です。こうした消費者の質問に答えるコンテンツを提供した上でのオファーで売り込む…というのが正しい順序です。
実際にこうしたコンテンツを提供した際に、求めている情報を提供できているのかは「直帰率」や「読了(スクロール)率」が参考になります。

4.ZMOTに向けて最適化する

消費者の疑問や欲求を見つけてコンテンツを作ったら、ZMOTに合わせて調整していく必要があります。コンテンツは一方的に消費者に提供するわけではなく、消費者と共創していくものということを念頭に置いて、「オウンドメディア」「ペイドメディア」「アーンドメディア」のトリプルメディアに加えた+「シェアードメディア」の4つを適切に組み合わせていきます。
※従来の「アーンドメディア」はSNSやマスメディアでの紹介を総合した概念でしたが、近年では雑誌やテレビ、インフルエンサーによるPR視点のメディアを「アーンドメディア」、消費者起点での拡散を「シェアードメディア」という分類が広まっています

たとえばSNS上で消費者同士が自社商品について話題にしているのであれば、その文脈に沿ってどのようなコミュニケーションを取れるのかを考えることが重要です。
その他モバイル(スマホ)対応は現在では必須ですし、店舗があるビジネスや地域に根ざしたビジネスであればGoogleマップやマイビジネスでの情報提供も必要になります。

5.スピードが重要

旧来のように、年間計画を建てるような大規模なマーケティング計画を建てることはZMOTにおいては有効ではありません。社会のトレンドや他社の動きを反映して、いかに早く柔軟に対応できるかが重要です。

6.動画を活用する

動画は非常に重要なコンテンツです。例えば製品デモやハウツー動画はブランドコミュニケーションとして活用できます。BtoBビジネスであっても、導入事例やソートリーダーシップをアピールすることは有効です。動画は共有が容易で、Webページに埋め込んだりSNSやメールに添付したりと、様々な用途に転用できる優秀なコンテンツです。

7.実践する

前述のようにZMOT施策においては速さと柔軟さが優先です。従って迅速にテストし実践し早期に失敗を重ねることで磨かれていきます。組織的にそういった活動であることを許容する体制を作ることが必要です。

まとめ

中小企業でのコンテンツマーケティングにおいては、ZMOTに対して専任の組織で対処することは難しいかもしれません。ただ、例えばオウンドメディアでの情報発信においても「実際の購買行動をおこす前の段階から消費者とのコミュニケーションを取る」というZMOTの根本的な概念は十分に活かせます。

2020年現在ではSEOやコンテンツマーケティング戦略の幅も広がり、ZMOTの重要性は増しています。ZMOTについては現在でも情報がアップデートされていますので、今後この領域の実務に携わる方はご覧になると良いでしょう。

Google:Zero Moment of Truth (ZMOT)